伝道掲示板 

(よろず)の事は頼むべからず。

おろかなる人は、

深く物を頼む故に、

うらみいかることあり。

(兼好法師『徒然草』)



黒部市は黒部川の伏流水による湧水の豊富な地域で、古くから生活に適していたため市内各所に遺跡や古刹があります。明源寺の在所であり、市の中心部でもある三日市地区にも「親鸞聖人が越後に下る道すがら、三日市の宿で串柿のもてなしを受け、その柿の三つの種を囲炉裏で焼いた後に植えたところ、この種が芽を吹き出した」という「三本柿」の伝承が残っており、この三本柿の史跡(黒部市指定文化財)は、念仏の功徳を示すものとして地域の人々に大切にされています。


掲示板と住職の辻俊明さん(写真右)・衆徒の明浩さん

明源寺門前の伝道掲示板は、寺地移転をきっかけとして2020年に新たに設置されました。寺が移転したことを周知するためと、お寺としての発信の必要性を感じていたためだったそうです。元のお寺は車の往来する大通りに面していましたが、移転先は富山地方鉄道東三日市駅から徒歩2分の場所となりました。駅の利用者がお寺の前を行き来するため掲示物が目に留まりやすく、掲示板の前で立ち止まる人や掲示板の写真を撮っていく人も見られるなど、多くの人に関心をもっていただいている様子です。



掲示板のことばに添えた文章は印刷して配布もしています

掲示内容は主に副住職の役割を担う明浩さんが考えており、「文言は、聖教や講録、小説などから自分の心に残ったフレーズを書いている」とのことでした。また掲示物を作成する際には「なるべく分かりやすくすることを心がけ、必要に応じて補足の文章を添えるようにしている」といった配慮をされ「掲示板を見た人に少しでも共感してもらったり、興味をもってもらったりできたらうれしい」と語られます。

明浩さんは、僧侶になる前はテレビ番組を制作する会社に勤めていました。制作サイドが伝えたいことと視聴者が知りたいことを結び付ける番組作りをしてきた経験が、私たちと教えとを結び付けるための取り組みにも大いに生かされていると感じます。日頃からご門徒のお話や思いを丁寧に聞き、ご門徒が参加する教区や組の学習会や研修会があれば精力的に出席してご門徒の声に耳を傾けている姿から、「人々は真宗に何を求めているのか」という観点を大事にされていることが伝わってきます。

明浩さんによる報恩講法話の様子


一方通行の伝道ではなく、互いに思いを汲み取り合って、ともに教えを訪ねていきたいという姿勢が、見る人や聞く人の心にひびく掲示や法話を作り上げているのだと感じました。


(富山教区通信員・庭田龍信)

『真宗』 2023年5月号「お寺の掲示板」より

ご紹介したお寺:富山教区第十二組 明源寺(住職 辻 俊明)
※役職等は『真宗』誌掲載時のまま記載しています。