ラジオ放送「東本願寺の時間」

武田 昭 (滋賀県 本福寺)
第1回 明日に向かって生きよう [2010.9.]音声を聞く

おはようございます。さあ、今日も希望の朝がきましたね。 みなさん快く朝をむかえられましたか? お釈迦様が説かれたあるお経には、仏様の国においでになる方々は、 まず清らかな朝を迎えられるとあらわされています。この世に生きている私たちも毎日このようでありたいものです。 しかし、そのように何の煩わしさもなく、順調にすごすことの出来る日は現実にはなかなかありません。 生きていることは確かにうれしいことですが、毎日毎日大小の煩わしいことが湧いてきて心の重い日もたくさんあります。 しかしよく考えてみてください。これこそ今、生きていることの証です。すばらしい事実に気付いてください。
先日、この春に小学校に入学する十人ばかりの子どもさんとそのお母さんに、お寺においでいただき入学お祝いの会を開いた時のことです。 どの子もどの子も未来に向かって生きてゆこうとする「いのち」の輝きを感じさせてくれました。 やがて母子(ルビ:おやこ)交えてのカレーライスの夕食をにぎやかにいただきました。まもなく外の景色も夕やみがすすみ、 楽しい時間も終わりに近づきました。その時、元気のいい一人の男の子が「ボク帰るのイヤだ。暗くなってきてイヤだ。 なんで暗くなってくるのや?」とひと声大きくみんなに言いました。しかしその会にいた母子の皆さんは一向に気にとめていただけません。 かえって、あの子は何をいっているのや、夜になったら暗くなるのは当たり前のことではないかとさえいわんばかりでした。 その男の子は、だれも一向に相手してくれない不満を自分のお母さんに向けて 「ねえ、お母さん。どうして夜になると暗くなるの? お母さん教えて」と更にたずねていました。 今までザワザワしていたみんなが急に静かになってしまいました。
そこで私はみんなに、「夜はどうして暗くなるのかな? という答えを出してから帰ることにしましょう」と呼びかけました。 この答えは確かに天体の運動によって出来る結果ですが、そんな難しい理論を小さな子どもさんに理解できないでしょう。 私もこの小さな、しかし明日に向かって希望いっぱいのこの子どもさんたちに本当に「よかった」といえる答を出すことに心掛けました。 みんな話し合っている間に色々の考えが出て解答の糸口がでてきました。
とうとう、ある女の子が元気よくみんなに解るようにいいました。 「それはネエ、わたし達は、昼間は勉強したり、運動したり、遊んだりしているけれども、一生懸命やれば疲れるでしょう。 だから私たちは夜になったら疲れてねるでしょう。そして明日にがんばるような元気をためるのよ。」と、わが身を通して語りかけてくれました。 みんな、ああそうだと理解の顔をあらわしました。別の女の子が続いて「わかった、わかった、あのお日様もね、 昼間、一生懸命はたらいたから、私たちと同じや。夜は疲れてねるのや。そして元気をためるのやで。そして明日また元気を出すのや」。 みんなすばらしい答えを出してくれました。体に「明日に向かって生きる」という希望いっぱいの思いが満ちているのです。
最後に「さあ、みなさん前に立っている、ズーッと静かにみつめておいでくださる仏様のお顔がにっこりとしておられますよ。 元気な皆さんに喜んでおられます。今日はよかったね。仏様に手を合わせて、ありがとうといって帰りましょう。」と、 新入生の子どもさんとお母さんたちに呼びかけました。両手をあわせ「ありがとうございました」とひと言、 大きな声にただ未来を託す思いでした。
この世の中には男女のちがい、年齢のちがい、職業のちがい、生活の仕方のちがい、 考え方のちがい、色々ですが、たった一つのいのちを持って生きていることだけはすべてに共通です。 そのいのちは、それぞれ色々のお育てをいただいて生きているのです。そのいのちは、誰にも代わることのない私のいのちです。 そのいのちを一人ひとりが明日に向かって輝いて生きていくことこそ、私たち自らに全うしていかねばならないことでございます。

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