ラジオ放送「東本願寺の時間」

榊 法存(山形県 皆龍寺)
第三回 私を育てるもの音声を聞く

 山形の寺の住職をしております、榊 法存と申します。
 今回は、私のお寺の子供会の事を少しご紹介したいと思います。
 この子供会は、皆龍寺サンガスクールといいまして、それを略してKSSと呼んでいるのですが、始めてからもう25~6年ぐらいなります。このKSSは、高校生が中心となって企画や運営をしていきます。小学生から中学生、そして高校生でスタッフになるんですが、夏休みや春休みなどの大きな行事の時は、大学生や社会人、そして子供のお父さんやお母さん達も協力してくれます。8月には東本願寺の子供月間に毎年、彼ら高校生スタッフが引率をして参加したりもしてきました。
 今日は、KSSの一人を紹介したいと思います。その人は(仮名で)Y君という人ですが、今は作業療法士をやっている人です。彼も小さいころから子供会に来ていて、高校生になってスタッフをやってくれた人であります。彼が高校生スタッフの時、M君という小学生の子供がおりまして、M君はY君をよく慕って付きまとっていました。
 M君というのは、手足が不自由な病気の子供でした。そういうKSS活動を通して、いつしかM君のような病気を治してあげたい、と思うようになったのだろうと思います。Y君は高校を卒業すると医療大学に進み、作業療法士の資格を取り、今ではそういう専門を学生に教える立場におります。
 不思議なことですが、それは親の願いよりも学校の先生の指導よりも遙かに強くMくんが影響していたのです。だから、彼の決心は強く、一生懸命にも努力いたしました。
 親鸞聖人の教えに「兩重因縁」両というのは両方の両、重というのは重なると書きますが、「兩重因縁」ということがあります。これは往生する為の因と縁とを教えておられる言葉ですが、簡単に申しますと、社会からのいろんな刺激やいろんな人たちの意見という外的影響と、自分の意思とがうまく絡み合ってはじめて理想の世界が開かれていく、ということなのでしょう。つまり、この「自分の意思」というのは自分みずから「こういう事をしたい」という気持ちの事でしょうけれども、ただそれだけではだめで、それを促す縁と結びつかなければ実現しない、ということを教えてくださっています。この、自分の因と外からの縁とが結びあうという、この事がとても大事な言葉ではないかと思います。
 私たちは、自分中心の生き方・考え方をします。自分の意志が一番大事だと思っています。しかしながら、周囲のことに目を配らずに突っ走ってしまえば、それは独りよがりになってしまうでしょう。
 また、周囲のことにだけとらわれて、自分の気持ちを押さえ無視した生き方では空しくなるだけです。自分の気持ちは外からの縁によって影響されて生まれ、またその影響力が自分の意志を堅固にしていく。そういう相互関係が和合するということなのでしょう。
 私の近くの農家の方がおっしゃっていた言葉、「農業で金儲けしようと思うならやめた方がいい。こんな割のあわん仕事をしているのは、ただ人においしいものを食べて貰う、という気持ちだけだ」という言葉を思い出します。また、大学の先生やお医者さんなどさまざまな仕事の方々が、今回の被災のために現場に赴き研究や努力されているのを見ると、本当に頭がさがります。たとえどんな仕事をしていても、その仕事に向かう意識と外側の世界とがどのように関係しているかによって、そこに生産されたり開発されてくる内容ががらっと違ってくるのではないでしょうか。
 そうなった時、私たちの環境が、人間ばかりではなくいろんな生物にとってもよい世界が広がってくるのではないでしょうか。

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